よってたかって恋ですか?


     10 (後篇)



顔馴染みの女子高生の皆さんに請われ、
ふんわりしっとり それは美味しい、
しかも最初に提供した時期が時期だったせいか、
“受験必勝アイテム”と噂されてさえいるらしき
ブッダ謹製カップケーキの“復刻”へ、
他でもないご本人が手を貸す運びと相なって。
駅前のキッチンスタジオまで イエスともどもお手伝いにと運び、
大量の極上カップケーキを何とか仕上げ。
間に合ってよかったネ、明日の本番も頑張ってねと
朗らかな笑顔でもって激励しつつ、
後片付けに入ったお嬢さんたちに送り出され、先に帰宅の途について。
やれやれ問題解決だとばかり、すっかりと安堵し、
夕食へのお買い物をして、帰りついたは愛しの我が家。
今日も楽しかった、充実していたねとの笑顔を交わし合い、
静かに訪のう宵の気配を待つばかり…だったはずが。

 「…イエス、茨の冠がないけど どうしたの?」

茨の蔓をぐるんと丸く輪にした冠が、
彼の濃色の髪の上という定位置から消え失せており。
ブッダから問われ、

 「……あれ? 何で無いんだろ?」

自分の頭へ手のひらを当てたイエス本人でさえ、
そうまでせねば気づかなんだほどの いつの間にかの喪失らしく。

 「外した覚えは?」
 「ないよぉ。」

シャンプーするときだって外さないほど
…いやまあ、そっちには別の効用があるからだけれど。(笑)
朝起きてから晩に寝るまでの間、
邪魔だとかいう方向へ意識してでなけりゃあ、
わざわざ外しはしないツールであって。

 「調理中の頭へのスカーフだって あの上から巻いてたし。」

さらり、そうと言ってのけたイエスだったのへ、
だがだが、二人してハッとすると、そのまま相手を指差したのは、
お互いに閃いたことがあったから。

 「もしかして、」
 「うん、そうだと思う。」

 作業を終えた あのキッチンスタジオから帰るどさくさの中、
 スカーフを取った拍子に 一緒くたになって外れてしまったのかも。

となると、

 「そか、じゃあ あの子たちの手荷物の中ってことだね。」

彼女らが学校にか各自の自宅へか持ち帰るのだろ、
エプロンや何やという荷物の中へ、紛れ込んでいるに違いなく。
そうかそうかもと合点もいって、
納得しただけで早くも人心地ついたのか、

 「まあ、明日一杯は学園祭当日で忙しいだろうから、
  それが落ち着いてから訊けばいいかな。」

ブッダから頭に冠が無いよと指摘されても、
そういや さほど動じてはいなかったイエス。
もしかしてあの時に…という思い当たりに納得してなお、
自身の存在の一部とまでの神聖な代物でなし、
単なるツールに過ぎないからということか、
どこか暢気な言いようをするばかりなご本人と違い、

 「…そんな落ち着いてていいの?」

ブッダの側は至って神妙な表情のままでいる。
今出来ることは今片づける派の彼には、
そんな格好でうっちゃっておくのって居心地が悪いのかなと、
微笑ましいなぁなんて思いつつ、

 「だから。
  あれがないと私を認識してもらえないってものじゃないんだし。」

大天使たちから持たされた、いわば迷子札のようなもの。
その経緯を一番知ってるだろうブッダから、
案じられることこそ意外だと。
ちょいとお行儀は悪かったかもだが、
立ててたお膝の片方へ肘をつくほどに、
そちらはリラックスしたまま応じたヨシュア様だったれど。

 「でもネ、
  そんな意図はなくたって、
  キミの持ち物を遠くへ持ち去ったとなれば、
  他からはどう解釈されるものか。」

ブッダ様とて、瑣末なことにいちいち
その寛容な心持ちを捕らわれたりは致しませぬとも。
ただ、浮かぬ顔になった彼が、そういえばと思い出していたのは、
さすがは聡明な君で、もっと別の、もっと深いところであり。

 「? 何のこと?」
 「ほら、鍵だよ、鍵。」

ついうっかりと家の鍵を見失ったブッダが、
イエスの鍵を黙って借りたおりのこと、ふと思い出していたようで。

 「私だって 借りたって感覚だったけど、
  キミの預かり知らないところだったからか、
  鍵を盗んだ扱いになったでしょうが。」

 「あ…。」

一緒にいたなら、そもそもそんな事態になりはしなかった訳だから、
イエス自身は知らないことながら。
その鍵でブッダが開けたアパートの扉は、
何故だか地獄の深部へつながってたそうで。
(すいません、ここは原作参照です。)
苛酷な苦行を幾つも乗り越え、
何より“入滅”という死さえ通過したブッダでさえ、
あんな恐ろしいところなんだと ゾッとしたらしいコキュートス。

 「彼女らやその他の一般の人が、
  そんなところへ迷い込むとかいう級で、
  何かしらの罰を受けてたらどうすんの。」

 「う…そんな事態に成りかねないかなぁ?」

ちょっと考えてみようと持ちかけられたようなもの、
イエスもうんうんと思い直して出た結論が、

 「…そうだね。
  ウリエルが駆けつけて、
  問答無用とばかり、破壊の雷霆落としてたらどうしよう。」

何せ持ってかれたのはGPSつきの代物だけに、
そこにはイエスがいるはずとの勘違いも生じかねない。
そんな事情も知らぬまま、
何か用でもあってのこと駆けつけて、
どうしてこんな小娘らが、尊い神の子の迷子札を持っておるのだと(迷子札…)
双方ともに事情も判らぬまま、
とんでもない展開へ話がよじれていたらば……

 「わあ、どうしようっ。」

ここでようやく、最悪の事態への想定が追いついたらしいイエスであり。
青ざめながら両手で頭を抱え込み、

 「レイちゃんに電話してみ…あああ、しまった番号知らない。」
 「メールは?」

あ・そうだったと、
まだ消してはいなかった向こうからの連絡メールへの返信を出したが、

 「…返事が来ない。」
 「まあ、メールっていうのは
  本来“手が空いたときに読んでね”ってツールだからね。」

まだ10分と経ってないしと、
相変わらず IT系をそれほど優先してない生活が基本のブッダが宥めたけれど。

 「でもでも、あの子たち高校生だよ?」

メールチェックは病的なほど頻繁で、
ところによっては“3分ルール”なんていう信じられないことが横行しててと、
言いかかったイエスが 途中で言葉を切って思い起こしたのが、

 「あ、そっか。学校へ直行したのかもしれない。」
 「学校?」

こんな遅くに?と、
今度はブッダの側が理解出来ずにキョトンとしたが、

 「だって明日が本番でしょう?」

設営とか色々とやることがいっぱいだって言ってたしと。
ケーキ作りの傍ら、
他のお嬢さんたちとお喋りしていて得られたあれこれ、
何とか思い出したらしいイエス様、

 「夏に比べりゃ涼しいから、
  焼けたケーキも置いてくる所存で、
  教室だか会場だかへ運び入れてるのかも。」

 「それは判るけど。」

それと 高校生にしてはメールのチェックが遅いのとどう繋がるのかなと、
女子高生の生態にイエスほど詳しくはないブッダが
話に追いつき切れないよぉとの困り顔で訊けば。
ああごめんごめんと ふにゃりと微笑ったイエス、

 「校則が厳しいガッコでね。
  携帯やスマホの類は、
  校内では原則 電源落とせって決まりなんだって。」

 「そ、それは おさすが。」

 学園祭の準備中でもタブーなの?
 う〜ん、恐らく染みついてるんじゃないのかな。

 「現に返事来ないしさ。」
 「…だよね。」

となると、これ以上は手が打てないか、
スマホから上げたお顔を見合わせた二人だったが、

 それってもしかして
 明日まで何の手も打てないってことかしら、と

最悪な事態が降ってくるやもと思いが及んだ後だけに、
これって その最悪な事態の進行を
自分たちでは防げないってことなんじゃあという
恐ろしい結論に至るのも造作なく。

 「あ、でも、学校とは限らないよね。」

もしかしてイエスが借りたスカーフは誰かの私物だったかも知れぬ。
それはそのまま持ち主が持ち帰っているのかもと、
イエスが思いつきを口にしたものの、

 「だとすれば、ますますと行方が知れぬも同じことなのでは。」
 「う…。」

 ミカエルにGPSを見てみてって訊いてみる?

 う〜ん、
 それこそイエス様の私物を持ち去るとは…って話へなだれ込まないかな

もしももしもの応酬が続いたその末に、

 「そもそも もう向かってるんじゃなかろうか?」
 「そんな怖い話はやめてっ。」

ひゃあと肩をすくめたブッダだったが、
それでも聞こえない振りや聞きたくないとしようとはせず。
むしろ思い直したようにお顔を上げて、

 「確かに知らぬ顔は出来ないね。」

思い当たりがある以上、逃げを打ってはならぬことと、
うんと何かしらへの踏ん切りをつけ、
どうやら大天使らへ問い合わせてみようと思ったらしく。

 「でも、私のスマホから訊いたんじゃあ、
  イエス自身が行方不明なのかって思われないだろか。」

というか、そんな問い合わせをするってことが、
そのまま余計な関心を招かないかなと。
さすがは用心深くてしっかり者、
でもでもどんな難儀に陥ろうとも
結果 受け入れちゃうけどねという豪気な釈迦牟尼様。(こらこら)
そんな懸念を感じたらしく、
恐らく仏界だと そういう風に事態が展開するのだろうと思われて。

 「うっ、どうだろか。」

問われたイエスも、
一瞬、真顔で戸惑ったものの、

 「でも、そこまで気を回すような子たちじゃないけれど。」

選りにも選って、
案じてもらってる側がそんな風に把握しているのが何ともはや。
しかも、

 “それもそうかも…。”

ブッダの側も、ついついそうと納得してしまうほど、
どっちもどっちなおおらかさが ブッダにまで知られておいでの、
天乃国サイドの 主従や守護陣営なのであり。

 どうする? 訊いてみる?
 う〜ん、あ・でも

 「そういや、
  地上のハロウィンパーティーに呼ばれてるって。」

 「え? 四大天使全員で?」

うんと、いやに鹿爪らしいお顔になって頷いたイエスだったのは、
今更、大天使ともあろう彼らが由々しきことだとでも思ったからか。
アイドルのコンサートとか行っちゃうくらいだし、
それを言ったらバカンスしている自分たちはどうなるのかなぁと、
ちょっと目が点になりかかったブッダが答えに窮しておれば、

 「あああ、こんなことなら
  わたし自身も
  GPSの設定をスマホにインストールしとくんだった。」

 「いやいや、それって意味がないというか、」

本人の行方を本人が探すような事態が起きること、
一体どこの誰が想定するものか。
冠のない頭を 節の立った手で抱えるイエスの肩へと手を置いて、
そこはブッダも 落ち着いてと宥めにかかる。
かように、こたびは想定外にも程がある事態なのであり、
イエスの混乱ぶりも判らぬではないのだが、

 「えっと…。」

どうしてだろうか、此処に至って…やや視線を逸らしたブッダ様。
えっとぉと視線を泳がせてから、

 「実はサ…。////////」

自分のスマホを取り出して、
普段使いのアプリアイコンが居並ぶ画面を横へスライド、
すると、ポツンと1つだけ、見慣れないアイコンだけがある画面へ到達し、

 「これ、ミカエルさんから教えられてダウンロードさせてもらった
  キミの冠 探査用のGPSアプリなんだ。」

 「はい?」

さんざんっぱらミカエルたちへ訊いてみようかなどと迷いあぐねていたし、
ついさっきも ブッダ自身が、
イエスが自分の冠のGPS設定を持っててもしょうがないと言ったのと、
微妙に矛盾してはいませんか、それ…と。
イエスはそうと感じて ついつい訊き返したのだけれど。

 「あ、いやあの、これはっ。
  自転車に乗ったまま キミの行方が判らなくなった話をしたおりに、
  ミカエルさんから、
  だったらブッダ様も ご自身のスマホへ
  イエス様のGPS設定を記憶させといてくださいと言われて、
  あのあの。///////」

 「ブッダ? どしたの、落ち着いてっ。」

うんうん、そうだね、そういやそんなこともあったし、
あの時は 私もとっても心細かったよと、(原作参照…)
イエスの側は特に違和感を覚えもしない話の流れ。
むしろ、大きに焦って見せるブッダなのが、どうにも理解出来なくて。
とりあえず落ち着いてと、膝立ちになって腰を浮かせ、
向かい合ってた相手の二の腕を掴まえると、どうどうと宥めて差し上げれば、

 「だって…。////////」

真っ赤になったままのブッダ様、
身を乗り出したことで間近になった
イエスが案じてくれているお顔を見、
ますますと つのったは罪悪感というやつで。

 「今まで使ったことはないんだよ? 本当に。」
 「うん。
  だって私、あれから単独で迷子になったことって ないものね。」

にこりと微笑うイエスのその笑顔へ、
ああこの人はやはり、人を疑うなんてまずはと想いもつかぬのだなぁと、
ブッダもあらためて思い知る。
いやいや、使ったことがないのは本当で、ただ、

 「……あのね?
  出掛けてるキミの帰りが遅いとか、
  そういうのが気になった時、
  何度か“調べてみようかな”って
  思いかかったことはあったから…。/////////」

 「おや。」

ああそれで、そんな葛藤をさえ拾ってのこと、
罪深さを感じて真っ赤になったんだねと、

 「もうもう、ブッダったら。なんて正直者なんだろうvv」
 「いやあの・えっと。//////////」

感動したイエスから、ぎゅむと抱きしめられてしまい、
大好きなお人の懐ろの、覚えのありすぎるそれら、
堅いけど頼もしい胸板の質感や柔らかな匂いにくるまれつつ、

 そう解釈しちゃいますか?、と

いいのかなそれでと、
やや困惑したブッダ様なのは言うまでもなくて。

 「イエス、だからあのね?
  私、キミのプライバシーを知る術を握ってたも同然なんだよ?」

 「えっとぉ、うん。そうなるね。」

そこで自分の最近を振り返ったか、
ちょっと思い出すよに間をおいてから、

 「でも、それでと叱られたことなかったし。」

あくまでも素直に対する神の和子様、

 「寄り道したり、
  このくらいに帰るって言って出た以上に
  遅くなったこともあったけど。
  どうしたの?って心配されたことこそあれ、
  全部知ってるんだよって
  首根っこ掴まえるような叱られ方をしたことってなかったし。」

 「…うん。////////」

でしょ?と柔らかに、それこそ諭されるように言われ。

 「今の今さっきだって、
  私の冠、実は追っかけられるんだってこと、
  なかなか思い出せなかったブッダだったんじゃあないの?」

 「……………うん。////////」

手のうちに“手段”を持ってはいても、
使ってみようとまでは思わなかったからこそでしょう?と。
嬉しそうに言われてしまい、

 “〜〜〜。//////////”

こちらも 使わなくてよかったぁとは思わず、
ああ信じてもらえてるんだと、
そこへ感に入ってしまうブッダ様だった辺りが
善人の極みには違いなく。

 生まれて初めての恋心に翻弄されてる真っ最中で、
 そうであるが故の 多少の悋気が起きたとしても。
 さすがにそこへは手が伸びないのが当たり前、
 それでこそ聖人というものならしいです。

まま、そんな手を使ったら使ったで、
相手に感づかれた挙句、
冠をどっかに預けて誤魔化すなんていう小技を使われるだけですが
…と思った私は人間だもの、小狡くてもしょうがなく。(こらこら)

 ともあれ

ひょんなというか、うっかりしていたというか(笑)
意外なところに指針があったの、
正しく“渡りに船”とばかりに受け取って、

 「それを使えば、判るんでしょう? だったら使ってみてよ。」
 「うんっ。」

もしかして、お嬢さんたちの中のいずれかのお宅へ移動しているかも。
だとしたら、それこそプライバシーに触れる事態となるやも知れないが、
何も知らぬまま手にしたその上、
ひょいと、イエスがそうしているように、頭にまとってみたらば、
そこから何が起きるかは まるきり不明。
ブッダが案じたように、勝手に持ち去ったと解釈されたら?
茨の棘が罰を与えるその前に、何としてでも回収せねばと気も逸り、

 「……あ、此処みたい。」

液晶画面に現れた地図は、ここいらのご近所レベルの縮尺地図。
小さな輪っか状の緑の冠のアイコンが“此処だよ”と点滅しているのは、
キッチンスタジオがあったJR沿線から既にいくらか離れており、
やっぱり彼らのいる松田ハイツでもなくて。

 「商店街からも離れたところだよね。
  住宅街の中、なのかな。」

 「うう、やっぱりぃ?」

どなたか、お道具を預かった子の手元ってことだろかと、
ひどく案じるような口調になってるブッダに合わせ、
イエスもまた、眉をひそめて見せたのだけれども。

 「…………あれ?」

地図を見ていて何にか気づきもしたらしく。

 「これ、もうちょっと拡大できる?」
 「え? ああ、うん。」

親指と人差し指の指先をくっつけて画面に乗せ、
くいっと開いて見せれば、少しだけ縮尺が変化して、
その下の地図が拡大される。
何町何丁目までが何とか読める範囲となったのへ、
イエスの表情があっと弾かれて、

 「これ、あの子たちの通ってる女学園だ。」
 「はい?」





     ◇◇◇



わざわざ教わったとか、ましてや誘われた訳ではなくて、

 『あの辺じゃあ有名なんだって。』

あすこの制服着たお嬢さんたちが、
駅からどっと出て来て、
そのまま一斉に向かう方って格好で判りやすいからだろね、と
いとも容易いことのように言うイエスだが。
ブッダにしてみりゃ、純粋にお買い物でしか出掛けぬ駅前なので。

 『……ふ〜ん。』

そんな方へも注意を分散させていたのかキミってばと、
やや久々に悋気が頭をもたげかけたのはここだけの話。(苦笑)
いつぞやにレイちゃんたちが話していたところによれば、
若い人の軽やかな歩調で 30分とかからぬ距離だそうだが、
そう遠くはないとはいえ、一刻も早く向かわなきゃと。
上着を着直すのももどかしく、
早く早くと互いを急かして出て来たそのまま、
アパートに立て掛けてあった彼らの愛車、
自力二足駆動のカンタカ2号、サイクリング型自転車を引き出して。

 『ほら、ブッダは後ろ。乗って乗って。』
 『え? あ、うん。』

これって外でも大胆にくっついてていいよなシチュエーションかも
…なんていう甘いこと、こんな場合だってのにちらと思ったものの、

 “ああでも、
  ホントは交通法規に触れるんだったよね、二人乗りって。”

どっちにしたって“いけないこと”には違いないのが、なんか微妙。///////
でもでも迂闊に駆け出せない身だ、今は勘弁と、
ごめんなさいと念じたからか、
目的地へつくまでお巡りさんとは遭遇しなかった。

 “見つからなきゃ良いってのは、
  それこそ一番いけないことなんだけどもね。”

何だかどうも、
このごろ何かと緩んで来てないか私たち…というのも、
この際は 後回しにしようと眸をつむり。
黄昏迫る街なかを、
えいえいと頑張ってペダルを踏んだイエスであり。

 「えっと、私が漕いだ方がいいのでは?」

体力があるのはブッダの側で、
そこはイエスも暗黙のうちに(?)了解していることなれど。
こたびばかりは“それはダメ”と、かぶりを振り振り言い切った彼で。
そのココロは、

 「今日のは特に急ぎの走りだから、
  それだと鹿さんたちが現れるかもしれないでしょう?」

 「あ…。」

お巡りさんに注意されるのと同じほど厄介な事情が、
実は他にもあったりする彼ら。
釈迦牟尼様のお役に立てるのならばと、
ブッダが急いでいる様子を感じ取ってのことだろう、
どこからか姿を見せる大鹿たちがいるのだが。
そんな彼らの出現は、
なにも自前の足で走るときばかりとは限らないかも知れぬ。
自動車にはさすがに敵わないからか、
バスやタクシーに乗ってるときは見かけぬが、
自転車の速度では微妙と言えて。
それに、冗談抜きに心から急いでいるのだから、
エンカウント率も高かろうというのがイエスの見解で、

 「そんな RPGの魔物みたいに…。」
 「あああ、ごめんごめん。」

そんなこんなでこういう格好、
一か八かの二人乗りにて、目的地を目指しておいでのお二人で。
立ち漕ぎになってはイエスが漕ぎ手でも鹿が出かねなかったれど、
幸い、ブッダの手の中のスマホが示す先には 大した坂道もなく。
平坦な中通りを選んで向かえるのがありがたかったし、

 「それに、ブッダ最近またちょっと痩せたでしょ。」
 「……え?////////」

判らないとでも思ったの?と、
背中の向こう、小さく笑う気配を乗せたお声がブッダへ届く。
えいえいと やや前のめりになってペダルを踏むイエス自身は、
どうだ参ったか程度の、
ともすりゃ“お見通しなんだから”という
自慢げな言いようをしたつもりかも知れないが。

 “特に意識してはなかったんだのにな。////////”

それに、イエスったら“ふかふか〜vv”とか言って、
抱きしめた感触が柔らかいままのほうが嬉しいらしいし、と。
そこは薄々察していたがため、
絞り込みを意識したり、ゴツい体躯をなんて思ったり、
自身を常に厳しく律していたつもりは なかったのだけれど。

 “それでもあのあの、////////”

二の腕とかがたるんでしまうのは許せぬと、
最低限の美意識が働いてのこと、
ジョギングだって欠かさぬし、部分痩せにも関心は向いて。

 “それに、このところは体重計にも乗ってないのに。////////”

今やってみている新しい腿上げ運動、
効果が出るかなどうかしらというのは、
10日ほど経ってみないと判らぬことゆえ。
ブッダ自身もまだ、効果ありやかどうかは判ってなくて。
だってのにな、どうして判ったのかなと、
戸惑いに うにむにと唇咬んで含羞んでおれば、

 「毎晩ギュウしてるんだもん、判るって。」

 《 いえすぅ〜〜〜〜。////////》

こういう時のそういう話には 伝心使ってと、
螺髪に結われたすぐ真下の、
賢そうなおでこ、あまりの恥ずかしさから
目の前の広い背中にとんと当ててしまわれた如来様。

 《 ああ、ごめんごめん。だからねあのね、》

 《 わーわーわーっ。//////////》

もう判ったからぁと ますます赤くなり、
それ以上はもう聞かないよと
火照った頬をぽそりとあてた背中は堅くって、
でもでも、とっても温かく。

 “あ…。////////”

かいがら骨がそれは忙しそうにぐいぐいと盛り上がってるのが、
何とも頼もしくって…どこかセクシーでならなくて。
こんな時だっていうのにね、
何となく、口許に笑みが浮かんでしまったブッダ様だったのは、
どうかどうかご内密に……。////////




  お題 5 『背中に頬をあてれば』






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  *そういや、関東は関西り日暮れが早いんでしたっけね。
   陽が沈めば するすると暗くなるのが秋の宵ですしねぇ…。
   このお話は まだ10月最終日設定ですので、
   まだまだ何とか明るいということで どうかご容赦を。
   確かいいお天気で、
   宵には多数の仮装パーティー客が
   都心のあちこちであふれてたと記憶しているのですが…。

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

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